副団長の1

騎士団副長のハルシは孤児出身だ。北原を治める貴族ユンラッド卿の養子として健やかに育ち、十五になる頃には騎士団へ入り独り立ちをした。つい最近のこと、雪中行軍で命を落とした先代副団長の代わりに彼は異例の若さで副団長に抜擢された。彼はフィオドルニアの義理の兄でもある。

副団長の2

彼が入団したのは先代聖女の死後7年が経った頃。新たな聖女が未だ現れず国は混迷していた。初任務は神術師を聖女隠匿の嫌疑で連行すること。右も左も分からぬ中、雪の降る都をおろしたての兵装で行進したあの日のことは今でも脳裏に焼き付いている。

副団長の3

神術師の家には義父が訪れていた。義父は見知らぬ幼い子を覆い隠すように立っている。騎士団長が幼子について尋ねると、神術師は「ユンラッド卿の子だ」と言った。もちろん義父に自分以外の子供などいないのだが、ハルシは何も言わなかった。

副団長の4

神術師の処刑は驚くべき速やかさで行われた。捕らえた夜の翌朝早くには、広場にその躯が晒されたのだ。起き出した民衆が一人また一人と集まり、最終的には大群衆となり国家の裏切り者の男とその妻を罵倒した。

副団長の5

義理の弟となったあの少年の様子が気がかりなハルシは、公務の合間を縫って頻繁に義父の家を訪れた。あの日以来、長らく塞ぎ込んでいた少年も、優しい兄という存在を得て少しは表情が和らいだように思えた。

副団長の6

ある日ユンラッド卿への火急の言伝を命じられたハルシは支給兵装のまま邸宅に立ち入った。玄関の戸を開け出迎えた義弟の表情は凍りつき、そして金切り声をあげた。それ以来、義弟は一切彼の前に姿を表さなくなった。

副団長の7

義弟の入団はハルシにとって実に納得の行かない事案だった。あんなにも恐れ疎んでいた騎士団に自ら飛び込んでくるとは――。嫌な予感を胸に抱きながらも、義兄として見守り導いてやらねばと心に決めていた。